「あなたは、何に囲まれて最期をむかえたいですか?」
「老後も一人で生きるのか」「家族を作るのか」「一生、借家住まいを続けるのか」など、団地の女性たちとの対話を通じ、また彼女たちの生きざまを撮影することで、監督である私自身が、これまで漠然としか考えてこなかったこれらの問題に、深く真剣に向き合うようになった。
とりわけ私にとって強烈だったのが、打越シズさんと、彼女が持つ大量の「段ボール」。「断捨離」がブームとなり、「ミニマムな暮らし」を好む私たち世代にとって、親あるいはそれ以上の世代が、物を捨てずに何でもとっておこうとすることは理解に苦しむ。幸せに暮らすためには、そういった「ゴミ」はなるべく減らし、身の回りの物は最小限にしておいた方が良いに「決まっている」!
・・・しかし、果たしてそれは真実なのだろうか?積まれた段ボールの中身は、本当にゴミなのだろうか?その答えは、本作品の中で打越さんの人生を紐解きながら、見る側それぞれが見つけて欲しい。
「老い」は、誰もが避けて通ることの出来ない問題である。そしてまた、事故や災害などによって、突然住居の変更を余儀なくされる時代を私たちは生きている。この作品で取り上げているのは、横浜にある小さな団地の建て替え、という非常にローカルな事象である。しかし、その中には、女性の生き方や高齢者の借家住まいについてなど、世界中の多くの人たちが共感するテーマが内包されている。
監督:杉本曉子(すぎもとあきこ)
東京都生まれ。大学卒業後、番組制作会社に入社し、テレビ番組のアシスタントディレクター(AD)として勤務。その後数年間、映像業界から離れて異業種をいくつか経験したのち、会社員として働くかたわら シナリオを学ぶ。2008 年 6 月から海岸通団地の撮影を開始し、2009 年に自主 ドキュメンタリー映画『海岸通団地物語』を完成させる。東京都内、神奈川県 など 9 か所で作品の自主上映を行う。 旅するように暮らしながら日本、そして世界の「集合住宅」とそこにある人々 の「暮らし」を切り取って表現することに興味がある。
作品歴/受賞歴
- 2009年 『海岸通団地物語』 CREAMヨコハマ国際映像祭 コンペティション国内長編作品として上映
- 2018年 『Danchi Woman』 第18回ニッポン・コネクション日本映画祭(フランクフルト)ニッポン・ビジョン審査員賞、ニッポン・ビジョン観客賞ノミネート
- 2018年 『Danchi Woman』 第15回EBS国際ドキュメンタリー映画祭(韓国) 正式上映
- 2018年 『Danchi Woman』 あいち国際女性映画祭2018 長編フィルム部門 金のコノハズク賞(グランプリ)受賞
- 2018年 『Danchi Woman』 ケープタウン国際映画マーケット・映画祭 正式上映
- 2018年 『Danchi Woman』 はままつ映画祭2018 入選作品上映
- 2019年 『Danchi Woman』 第10回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルHP公開 入選
- 2023年 『Danchi Woman』 Un petit air du Japon — Festival de documentaires japonais au cinema 「Ecran D’or」受賞 (フランス語字幕版「La femme du Danchi」)